2020.09.02
<カウンセリング> 大切な家族がうつ病になったら ①励ましてはいけない

 うつ病の人の頭の中では、悪循環のサイクルがグルグル回っています。何かがうまくいかないと、責任感の強い人は自分がもっとがんばらなければと思い、がんばるとエネルギーを使い、それだけうつがひどくなり、その症状として気力・集中力がさらに低下し、うまくいかないことが増え、もっとがんばらなければとますます思う、という悪循環です。
 このような悪循環にとりつかれてしまっている人に「がんばれ」と言うと、「自分のがんばりが足りない」という意味に受け止められ、「やっぱりもっとがんばらなければならないんだ」という気持ちを強めるだけなのです。善意の励ましが、うつ病の悪循環をさらに加速させることになってしまうのです。この構造に気づけば、怖くて励ますことなどできなくなるでしょう。うつ病を治すためには、この悪循環にブレーキをかけていくことが必要ですから、そこで必要とされるコメントは「がんばれ」「病は気から」ではなく、「休め」「無理をするな」ということになるのです。「早くよくなってね」という言い方も、相手の苦しみを見ているとつい出てしまう一言なのですが、こう言われると「よくなるための努力が足りない」「早くよくならないと迷惑だ」と言われているように受け取ってしまう人もいます。ですから、「早くよくなるように、今は辛いけれども一緒に治療を受けていこうね」というふうに共同作業として話したほうがよいでしょう。
 また、少しよくなってきたときに、「すっかりよくなったみたいだね」「だいぶ元気になったみたいね」と言うのも、通常であれば善意のご言なのですが、プレッシャーに感じる患者さんもあんがい多いのです。病気が治るときは大きな「役割の変化」のときですから、ただでさえプレッシャーがあります。調子にもまだまだ波があります。そこに、それらの言葉をかけられてしまうと、「辛そうな顔も見せられないな」と感じる患者さんが多いということを忘れないようにしましょう。常に頭の中に悪循環の図を入れておけば、どんなときにも心がけるのは「悪循環にブレーキをかけること」だと理解できます。よくなってきたようだと思ったら、「だいぶ顔色もよくなってきたみたいだけど、まだまだ無理をしないでね」とか「せっかくここまでがんばってきたんだから、焦らないでゆっくり治そう」というふうに声をかけてあげたほうがよいでしょう。
 励ましてはいけない、ということを話すと、講演などでよくいただく質問に、「それでは見放されたように感じるのではないか」というものがあります。この質問はなぜか男性からいただくことが多いのですが、職場で励まさないと「戦力外通告」するような感じがする、というのです。実際に病気になった方は「休め」「無理をするな」という一言に救われる思いがすることのほうが圧倒的に多いのですが、心配でしたら言い方を少し工夫してもよいと思います。ここでも対人関係療法で言う「役割期待」の考え方が役に立つでしょう。自分は相手に何を期待しているのかを明確に伝えるのです。
それは、「あなたのことを大切だと思っている。また一緒に楽しく働きたいと思っている。そのためにも、今は休んで大事をとってくれ」ということでしょう。言い方としては、「こじらせると一緒に仕事ができなくなるから、とにかく今は休んでくれ」というのもよいかもしれません。

引用図書;水島広子:対人関係療法でなおすうつ病:創元社,2009.

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