2020.09.09
<カウンセリング> 大切な家族がうつ病になったら ④治療と価値観を混同しない

 うつ病の人を励ましてはいけない、ということを知識としては理解できても、もともとの価値観として「気合い」を好む人は少なくありません。うつ病患者さんの親御さんで、「昔はもっとみんな苦労していた。気合いが足りないからこんなふうになったのではないか」とおっしゃる方もいます。私は、「気合い」という価値観までをも否定したいわけではありません。ここでお話ししていることは、あくまでも「病気」についてであって、「価値観」の話とはまったく関係がないのです。
 たとえば、ふだんからランニングをして体力をつけている人が、運悪く肺炎になってしまったとしたら、やはり肺炎に効く抗生物質を飲むでしょう。そういうときに、「ランニングではなく抗生物質で肺炎を治そうとするなんて、気合いが足りない」と言うでしょうか。あるいは、そんな人がたまたま骨折してしまった、というときに、「ギプス固定して安静にするなんて、気合いが足りない。走れ」と言うでしょうか。
 ここでお話ししていることは、すべて、抗生物質やギプス固定と同じ、「治療」の話なのです。日ごろどのような価値観を持っていても、それは個人の自由であり、「人生すべて気合いだ」と思って気合いを入れて生きていることもまったくかまわないのです。でも、うつ病という病気になったら、その病気の治療法を守っていただきたいというだけのことなのです。
 そういう意味では、うつ病の人に「気合いだ」と言い続けることは、すでに重症の肺炎になっている人にランニングを続けるように言うのと同じことです。病気になったということを認識したら、効果的な治療を受けなければ命取りにもなりかねません。実際に、うつ病には自殺願望という症状がありますから、本当に命に関わる病気です。また、一度でもうつ病にかかった人は再発のリスクを持っていますので、治った後も決められた養生法を守っていく必要があるのです。
 それでも、どうしても「気合い」を捨てられない、という方は、うつ病の悪循環を止めることに気合いを入れてください。患者さんが休まずに働こうとしていたら、「だめじゃないか、ちゃんと休まなきゃ」「病院で言われたことを守らなきゃだめじゃないか」と「励まして」ください。「今までのパターンを変えるように、気合いを入れよう!」ということであれば、まさに治療が目指すところと同じです。ご自分のタイプとして「休もうね」などと優しく言えない、というご家族は、ぜひ、休むように気合いを入れてあげてください。そして、「自分は怠けているだけだ」と言う患者さんに、「何を言っているんだ。それは病気の症状なんだ。まだまだ病人としての自覚が足りない!」と目覚めさせてあげてください。

引用図書;水島広子:対人関係療法でなおすうつ病:創元社,2009.

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