2020.09.12
<カウンセリング> 大切な家族がうつ病になったら ⑤自殺願望の扱い方

 自殺のリスクが高いときは入院したほうがはるかに安全ですので、入院したほうがいいかどうかは主治医とよく話し合う必要があります。入院しないということになったのであれば、衝動的な自殺に結びつくようなもの(刃物など)は目に見えるところに置かないほうがよいでしょう。また、マンションの高層階などの場合、明らかに飛び降りやすいような部屋には寝かさないなどの配慮も必要です。
 ここでは、そういう一般的なリスク管理の他に、自殺という症状を対人関係療法の観点からどのように扱うかを考えてみます。
 まず、自殺したいという気持ちを、明らかな病気の症状として認識します。これは患者さんの死生観などの問題ではなく、病気の症状なのです。中には、うつ病になる前から「死にたい」などと言うのがクセだった人もいるかもしれませんが、そのようなときと現在の深刻さはまったく違うはずです。
 自殺願望という症状は、絶望感と最も関連するものです。ですから、症状を理解するときに「死ぬ」「死なない」というところだけにこだわるのではなく、「それほど希望が持てない辛い状態なのだ」というところを理解してあげてください。
 さて、患者さんが「死にたい」「死なせてほしい」と言っているというときに患者さんが本当に言いたいことは何かというと、「症状がひどすぎて生きているのが辛い」ということでしょう。そういう場合に、家族として求められる役割は何か、というと、まずは患者さんが役割期待について抱いているまちがった思い込みを是正する必要があります。それは、うつ病で自己評価が著しく下がった患者さんがよく抱くものですが、「自分が生きていることが迷惑なのだから、死んだほうが相手のためになる」というまちがった思い込みなのです。家族は一瞬悲しむかもしれないけれども、すぐに自分のことなど忘れて幸せな生活に戻るだろうと本気で思い込んでいる人は少なくありません。そういう人には、まずこちらの期待していること、「何をしてもいいけれども、とにかく生きていて」という思いを強く伝えましょう。あまりにも患者さんが頑固で「それは本音ではないはず。本当は死んでほしいと思っているのだろう」と言い続ける場合には、もしも患者さんが自殺をしてしまったら自分は一生自分を責め続けることになる、ということを伝えてもよいでしょう。これは「相手を視野に入れる」というやり方であるとも言えます。
 患者さんを失うことを思えば今の苦労など何でもない、ということを強調しましょう。そもそも、誰よりも苦しんでいるのは患者さん本人なのであって、家族ではない、ということも伝えましょう。その証拠に、本人は自殺したがっているけれども、家族はそうではないのです。家族が病気になっていないということは、苦労があるとしてもまだまだ耐えられる範囲内なのだ、という理屈を説明してもよいでしょう。
 「死なないでほしい」という希望は強く伝えるべきですが、同時に、「死にたいほど辛いという気持ちは遠慮なく話してほしい」ということも伝えるべきです。ご家族の中には、患者さんが「死にたい」と言うと、「もうその話はしないで」と言ったり、ため息をついて落ち込んだりする人もいますが、そういうコミュニケーションは、患者さんが辛さを表現する自由を奪ってしまいます。病気が治るまでは耐えるしかない患者さんにとって、それがどれほど辛いことかを理解する必要があります。「死なないでほしい」というのは、行動面への一つの注文にすぎず、「死にたい気持ち」という症状を「治療」することはできないのです。「絶対に死なないでね。でも、死にたいほど辛いのでしょうから、何でも話して。話せば少しは楽になるかもしれないから」というふうに言うとよいでしょう。自分は家族に迷惑をかけていると思っている患者さんは、家族に「愚痴」をこぼすことは迷惑に決まっている、と思い込んでいることが多いのです。そういう場合には、「思いつめるよりも、愚痴をこぼしてくれたほうがむしろありがたい」ということを伝えましょう。

引用図書;水島広子:対人関係療法でなおすうつ病:創元社,2009.

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